北海道農業近代化技術研究センター 「2007農業技術セミナー」
農村計画学会北海道地区セミナーのご報告

 当財団では、公益事業の一環として農業や食にかかわる講演会・シンポジウム、文化活動を企画し、道内の農業関係者をはじめ地域住民の方々を対象に事業を実施しております。

 いま、品目横断的経営安定対策や農地・水・環境保全向上対策の本格実施を控え、北海道の水田地帯では、安定的な営農、地域資源の保全・活用、農業水利施設の長寿命化などの多様な課題に対して農業農村整備が的確に対応していくことが重要です。
 今後、経営安定化のために、より比重の大きくなる水田汎用化や、より環境保全に配慮した基盤整備についての新たな技術が求められます。また、地域資源の保全・活用においては、低平地水田地帯における河跡湖や泥炭地湖沼における農業用排水としての利用や水質環境保全などの面からも再評価が必要になります。
 さらに、土地利用・施設利用の変化が予想されるなかで、老朽化する農業水利施設の的確な維持補修も求められます。
 このような背景から、「水田地域における農業農村整備の課題について」と題し、セミナーを開催いたしました。


1.概 要

【第1回】(CPD認定:4単位)
○日 時:平成19年2月8日(木)14:00〜17:00
○会 場:(財)北海道農業近代化技術研究センター 札幌支所 研修室
○入場者:54名
  講演@「水田汎用化・環境保全のための基盤整備技術」
  講演A「石狩川河跡湖の地域資源的評価について」
  講演B「農業水利施設の維持補修技術の課題について」


【第2回】(CPD認定:2単位)
○日 時:平成19年3月8日(木)15:30〜17:00
○会 場:(財)北海道農業近代化技術研究センター 深川事務所 水・土診断室
○入場者:24名
  講演「農業水利施設の維持補修技術の課題について」


2.内 容


◇講演「水田汎用化・環境保全のための基盤整備技術」◇
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
農村工学研究所 農村総合研究部  藤森新作 氏

 藤森氏は、水田汎用化に対する技術として、地下水位制御システム「FOEAS」の特徴と効果を説明。導入により、圃場全面の均一な地下水位の維持や管内中に堆積した泥や砂の除去が可能となり、水田の水稲栽培時、畑作時の両方に効果がある。コストは従来の暗渠排水施工とほぼ同じであり、暗渠管に勾配が無く排水路の浅底化が可能となるために労力軽減などに効果がある。今後、主に鹿児島県・山口県などで普及・展開していく。また、石がある土質や堅い土質の場合に低コストかつ容易に施工できる新暗渠工法、ベスト・ドレーン工法について説明。さらに、弾丸暗渠内への疎水材の投入、充填を弾丸暗渠の形成と同時に、効率よくかつ均一に行なうことができるアーム式弾丸暗渠形成装置について説明。最後に土壌硬化剤マグホワイトについて、土やチップとの混合による道路の舗装材、農地のマルチング、水田畦畔の造成などについて説明し、生態系に対する影響がセメント系固化材よりも小さいとした。

◇講演「石狩川河跡湖の地域資源的評価について」◇
北海道大学大学院農学研究院  山本忠男 氏

 山本氏は、河跡湖を貴重な地域資源として評価されており、石狩川河跡湖を対象として、実態を把握し、多様な機能について研究。浦臼地区の事例では、農業用水の重要な供給源、還元水を再利用するための中間貯留槽としての機能を紹介。お茶の水地区の事例では、河跡湖の貯留機能は流量の増加を遅らせ、ピーク流量を低減させる効果があり、それは少なくとも口径2,200oのポンプ1台の働きに相当することを明らかにされた。農業排水は河川に流出することで下流域の水環境へ負荷を与えるが、河跡湖に蓄積されることで河川への負荷流出が削減する。このように、河跡湖は農地と河川の間の緩衝帯として機能があるとした。
◇講演「農業水利施設の維持補修技術の課題について」◇
(独)土木研究所 寒地土木研究所
寒地農業基盤研究グループ  田頭秀和 氏

 田頭氏は、農業水利施設の維持補修技術の課題について、コンクリート構造物の老朽化への対策として、環境などの面から要望が増大している既存施設利用型工法について講演。現状のコスト比較は更新事業費と補修事業費を比較するものであり、補修後の寿命や再補修の必要性などを考慮できていない。このため、総合的にコストを計算する必要があると補修計画の問題点を指摘。農業水利施設の例として、寒冷地開水路を挙げ、補修工法の一例として、表面被覆工法と現在注目されている表面改質工法について説明。また、表面被覆補修工法の積雪寒冷地での実施に関し、極寒条件と雪荷重、凍上力などの課題について説明。亀裂の再開口と目地の問題では温度差や凍上力・雪荷重などによる動きが大きいため、表面被覆材には非常に大きな伸縮率が必要となる。その対策のひとつとして、既存の目地がセメント系材料等で高剛性の場合は除去してから補修する必要があるとした。