畑地かんがい用語
畑地かんがい
field irrigation (upland irrigation).
(ハタチカンガイ)
かんがいは圃場に人為的に水を供給することであり、対象作物によって、畑地かんがいあるいは水田かんがいとなる。畑地かんがいは有効土層の水分保持能力を利用して間断的に水を供給するのが原則であり、水の供給位置は、樹上、樹下、地表、地中、地下である。水の供給方法によって、地表かんがい、散水かんがい、定置パイプかんがい、地下かんがい等に分類される。
地表かんがい
field irrigation (upland irrigation).
(チヒョウカンガイ)
地表面を流水または湛水によってかんがいする方法。均等な水分布を与えるために、圃場を一定勾配あるいは平坦に整地する。畦間(うねま)に通水してかんがいする畦間法furrow irriga-tion、低い畦畔で区切った帯状の区画に薄層流で全面越流させるボーダー法border irrigation、等高線に沿って設けた溝から取水し、下方斜面に越流してかんがいするコンターディッチ法contour ditch irrigation, 畦畔で囲まれた平坦な小区画の中に湛水する水盤法basin irrigationなどがある。
散水かんがい
spray irrigation.
(サンスイカンガイ)
圧力水をノズルから噴射させ、降雨状または噴霧状にしてかんがいする方法。多くの土壌、地形条件に適用できるが、散水量分布が風に強く影響される。スプリンクラを用い、比較的広い範囲に降雨状の散水をするスプリンクラ法sprinkler irrigationと、施設内で特殊なノズルを用い噴霧水として散布するミスト法mist irrigationがある。
定置パイプかんがい
fixed pipe irrigation.
(テイチパイプカンガイ)
圃場に生育期間を通じて設置しておくパイプ類に設けた小孔より散水または滴下によってかんがいする方法。パイプにあけた多数の孔から比較的低圧水で散水する多孔管法per-forated pipe irrigationや点滴法がある。→点滴かんがい
点滴かんがい
drip irrigation.
(テンテキカンガイ)
定置パイプかんがいの点滴法によるかんがいのことで、トリクルかんがいtrickle irrigationと呼ばれることもある。圃場に設置されたパイプ内の水圧を、ドリップ・エミッターといわれる特殊なノズルや流路メカニズムで低下させ、作物の根元周辺に連続的にかんがい水を滴下させる方式。
正確に流量が設定できるので、乾燥地での節水や土壌への塩類集積を防ぐ方法として注目されている。
マイクロかんがい
micro-irrigation
(マイクロカンガイ)
圃場内に設置された給水管に減圧機材を取り付け、それを通して圃場に灌水するかんがいの総称で、普通、作物の根群域などの特定部分に少量ずつ頻繁に用水を供給する。末端の減圧装置をエミッターemitterといい、小型のスプリンクラ(マイクロ・スプリンクラ)や点滴かんがいで用いられるドリップ・エミッターのように器具に取り付ける型のものと、多孔管法などのように給水管と一体となって構成されている型のものがある。土壌水分が比較的正確に管理でき、節水的であるが、施設費がやや高く、集約的栽培に適用されることが多い。
地下かんがい
sub-irrigation.
(チカカンガイ)
暗渠または明渠を用いて下方から毛管作用によりかんがい水を供給する方法。類似の方法に地表下10〜20pに敷設した多孔管から浸潤させ、根群域を直接かんがいする地中灌水法がある。
節水かんがい
water saving irrigation.
(セッスイカンガイ)
降雨の有効性を高めるための少量かんがいや、作物の根元のみに部分かんがいを行うなど、標準水量より少ない水量でかんがいする方法。浸潤域を部分に限るマイクロかんがいはその例である。
消費水量
water saving irrigation.
(ショウヒスイリョウ)
畑作物の生育状況下での有効土層内における土壌水分の減少量。計画日消費水量は正常生育状況における同一の生育段階とみなしうる期間の日消費水量を平均したもの。日本においては、消費水量は、各土層ごとの土壌水分変化を追跡する土壌水分減少法soil moisture depletion methodで測定されることが多い。各土層別の水分消費の割合を土壌水分消費型Soil Moisture Extraction Pattern(SMEP)という。
畑地用水量
irrigation water requirement.
(ハタチヨウスイリョウ)
畑作物の生育に必要な水量から有効雨量を差し引いた水量に、圃場での栽培管理や送配水管理に要する水量(管理用水量)を加えた水量。正常生育のための消費水量の不足分を補う水分補給用水量supplemental water requirementがその中心をなす。作物生育だけでなく、水価を含め作物栽培全体の経済性を勘案した供給水量としての経済的用水量economical water requirement、あるいは水分補給以外の目的で利用される多目的用水量multipurpose water requirementも考慮することが重要である。
蒸発散量
(畑地かんがいの) evapotranspiration;ET.
(ジョウハッサンリョウ)
土壌面蒸発量と作物体からの蒸散量との合計値。畑地では消費水量を構成する最も基本的な要素である。有効土層外からの補給水を無視すれば蒸発散量が消費水量となる。実測以外には、計器蒸発量との比を示す蒸発散比ET ratioを当該地域の計器蒸発量値に乗じたり、気象要素との統計的関係により導かれた経験式で最大蒸発散量を示す蒸発散位potential ETを算出し、通常値の推定を図ることがある。また、生育期間中の総蒸発散量を生産物の乾物重量で除した要水量water requirementも平均的な蒸発散量を知る手がかりになる。
蒸発散量算定法
method of determining evapotran-spiration.
(ジョウハツサンリョウサンテイホウ)
用水計画の基礎は蒸発散量の算定であり、その直接的な測定法は、チャンバー法、ライシメーター法、土壌水分減少法である。測定結果に基づいて、各作物の蒸発散比を求めておけば、蒸発計蒸発量から蒸発散量を推定することができる。なお、気象因子による推定方法は、ソーンスウエイト法、ブラネイ・クリドル法、ペンマン法である。
蒸発散量算定法
method of determining evapotran-spiration.
(ジョウハツサンリョウサンテイホウ)
用水計画の基礎は蒸発散量の算定であり、その直接的な測定法は、チャンバー法、ライシメーター法、土壌水分減少法である。測定結果に基づいて、各作物の蒸発散比を求めておけば、蒸発計蒸発量から蒸発散量を推定することができる。なお、気象因子による推定方法は、ソーンスウエイト法、ブラネイ・クリドル法、ペンマン法である。
有効雨量
(畑地かんがいの) effective rainfall.
(ユウコウウリョウ)
畑面に降った雨のうち、作物の生育に有効に利用される雨量。有効雨量率は雨量、降雨強度、土壌の透水性などにより異なるほか、同一場所でも各降雨時の有効水分量の残存量により変化する。日本の用水計画では降雨に伴う用水供給必要量の減少の算出において、5mm/d未満を無効とし、それ以上の降雨の80%を有効としている。ただし、上限は全容易有効水分量(TRAM)から降雨直前の土壌の有効水分量を差引いた値。
インテークレート
intake rate.
(インテークレート)
かんがい水や雨水が地表面から単位時間に浸入する量。浸入速度測定方法は目的に応じて選ばれる。畦間法では、畦間に湛水または通水して測定する畦間インテークレートfurrow intake rate、散水かんがいでは、表面流出の発生限界から求める散水インテークレートspray intake rateとして測定する。簡易的な方法では、無底の円筒を土壌に打込み、内部に湛水して測定するシリンダーインフィルトロメーターcylinder infiltrometerがある。インテークレートは時間とともに減少する。その減少率がそのときのインテークレートの1/10となる時のインテークレートをベーシックインテークレートbasic intake rateといって、かんがい方式やかんがい強度決定の際の指標に用いられている。
有効水分量
available moisture.
(ユウコウスイブンリョウ)
植物によって有効に利用できる土壌水分量。普通、圃場容水量と永久しおれ点の間の水分量をいう。日本の畑地かんがい計画では24時間容水量と生長阻害水分点の間の生長有効水分量readily available moistureが用いられる。この値を制限土層の水分消費率で除せば、全容易有効水分量(総迅速有効水分量)total readily available moisture(TRAM)が得られる。
24時間容水量
moisture holding capacity after 24hours.
(24ジカンヨウスイリョウ)
十分なかんがいまたは雨水が供給されたのち、ほぼ24時間経過後に土壌中に保留される水分量。多くの場合、pF1.5〜2.0に相当する。有効水分の上限として畑地かんがい計画に用いられる。
生長阻害水分点
depletion of moistere content for normal growth.
(セイチョウソガイスイブンテン)
作物の正常生育に支障が現れる少水分状態を示す土壌水分量。土壌、作物により異なるが、pF3前後に相当することが多い。畑地かんがい計画で用いられる有効水分の一般的な下限値。
有効土層
(畑地かんがいの)effective soil layar.
(ユウコウドソウ)
おおよそ間断日数程度の連続干天期間に、土壌面蒸発、作物根の水分吸収、毛管補給などによって水分消費が行われる範囲の土層。
制限土層
critical soil layer on water content for normal growth.
(セイゲンドソウ)
有効土層内で水分消費にもっとも支配的な役割を果たし、その土層の水分状態が作物の生育、収量、品質に強く影響を及ぼす土層。主根群域root zoneの範囲が目安になる。
1回灌水量
amount of each irrigation.
(1カイカンスイリョウ)
間断かんがいで1回に与える水量。計画日消費水量に間断日数を乗じて求める。全容易有効水分量は1回の最大灌水量に相当する。
間断日数
irrigation interval.
(カンダンニッスウ<
間断かんがいの間隔日数。全容易有効水分量を計画日最大消費量で除し、小数点以下を切り捨てて求める。消費水量が小さい時期でも間断日数は変更せず、かんがい時間で調整する。
かんがい強度
irrigation intensity, irrigation rate.
(カンガイキョウド)
単位時間にかんがいされる水量で、一般にmm/hで表す。散水かんがいで表面流出を起こさない限界のかんがい強度を許容散水強度allowable spray intensityといい、ベーシックインテークレートの1/5(傾斜地)〜1/3(平坦地)を目安とする。
かんがい効率
irrigation efficiency.
(カンガイコウリツ)
かんがい地域において、水源や用水流入点における取水量に対する、用水供給地点・範囲へ送配水される水量の割合をいう。一般に、水源から取水した全水量に対する畑地圃場で作物に有効に利用される水量(通常は蒸発散量)の総和の割合を全かんがい効率total irrigation efficiencyというが、これを単にかんがい効率ということもある。このほかに、取水した水量に対して圃場に供給される(圃場入口まで到着する)水量の割合を搬送効率conveyance efficiency、圃場内に灌水された水量のうち、有効土層内にとどまる水量の割合を適用効率application efficiencyという。かんがい効率は、様々な定義や対象範囲における用水供給の効率を示す総括的な指標であり、使用に当たってはその内容を明確にする必要がある。
ローテーションブロック
rotation block.
(ローテーションブロック)
決められた供給水量を用い、輪番制で間断日数内にかんがいできる単位区域。複数のローテーションブロックからなり、それらを1つの配水組織によってかんがいする範囲をかんがいブロックirrigation blockという。スプリンクラかんがいのローテーションブロックは、1個の給水栓に支配される散布ブロックspray blockを集めて構成される。
灌水施設
irrigation facilities.
(カンスイシセツ)
作物にかんがい水を供与するための末端圃場内施設。スプリンクラ法では、散布支管を地中に埋めて固定化した埋設定置式sub-surface system、施設を一定期間地上に設置する地表定置式surface fixed system、単位セットを人手で移動する人力移動式portable system、セットに設けた駆動装置で移動させる自走式がある。
給水栓
hydrant.
(キュウスイセン)
地下埋設管に立上り管を接続して圃場に水を配分する装置。回転式アングルバルブ、アルファルファバブルなどの手動用のものと、自動化されているものがある。
ファームポンド
farm pond.
(ファームポンド)
1日のうちで、末端圃場でのかんがい休止時に幹・支線水路から送られてくる用水をいったん貯留し、次のかんがい作業時にその貯留水を利用するために配水組織の上流部に設けられる水量調整の小溜池。ファームポンドの設置によって、施設利用の柔軟性が大きくなり、水の利用効果が上昇し、さらに降雨有効率が上昇するなどの効用が期待できる。
また、配水組織内の小さな範囲において同様の目的や、農薬・肥料の混入のために、配水漕distribution tankが設けられることもある。
多目的畑地かんがい
multi-purpose irrigation.
(タモクテキハタチカンガイ)
水分補給かんがいのほか、栽培管理の合理化、凍霜害、潮風害などの気象災害防止、管理作業の省力化など多くの目的を持って畑地にかんがいすること。肥培かんがい slurry irrigation.
かんがい施設を利用して、希釈された家畜ふん尿やでんぷん廃液を圃場に還元利用する方法。農地における物質循環を考慮に入れるため、省資源、環境保全などの見地から優れたかんがい技術の1つといえる。
肥培かんがい
slurry irrigation.
(ヒバイカンガイ)
かんがい施設を利用して、希釈された家畜ふん尿やでんぷん廃液を圃場に還元利用する方法。農地における物質循環を考慮に入れるため、省資源、環境保全などの見地から優れたかんがい技術の1つといえる。
圃場(ホジョウ)
水田や畑、牧草地のこと。
湛水(タンスイ)
降水などで、農地の地表に水をためること。
畦間 (ウネマ)
作物を植えているところをウネといいウネとウネの間のところ。
畦畔 (ケイハン)
土を盛って区画の境界を設けた水田の周りの土手のようなところ。。
土壌 (ドジョウ)
作物の生育をする土地
越流(エツリュウ)
水が堰(セキ)を越えて流れること。
堰(セキ)
水を他へ引いたり流量を調節するためにせきとめるところ。ダム。
小孔(ショウコウ)
小さい穴のこと。
多孔管(タコウカン)
小さい穴がたくさん開いたパイプのこと。
塩類集積(エンルイシュウセキ)
土壌中に塩分を含んだ水が乾燥によって濃縮し地表にたまること。
暗渠(アンキョ)
地下排水のために地中に埋設した施設。
暗渠排水は、圃場内の余剰水を速やかに排除し、農作業のの効率化と作物生育を良好に保つために圃場内に設置される。
明渠(メイキョ)
地上に設けられた上部をあけはなしたままの水路のこと。
明渠排水は、開水路による排水のこと。
灌水(カンスイ)
草木や農作物に水を注ぎかけること。
薄層流(ハクソウリュウ)
水を広く薄く流すこと。
永久しおれ点(pF4.2)(エイキュウシオレテン)
植物が枯死する土壌水分量のこと。
参考)生長阻害水分点(pF2.7〜3.0)
初期しおれ点(pF3.8)
土壌水分量(ドジョウスイブンリョウ)
土壌中に含まれる水の体積のこと。
pF値(ピーエフチ)
土壌水分を数値で表わしたもので数値が大きい程乾いた土の状態を表わす。
圃場容水量(ホジョウヨウスイリョウ)
多くの降雨や灌水後、水の降下運動が小さくなった時の含水量のこと。(pF1.5〜1.8)
土壌面蒸発量(ドジョウメンジョウハツリョウ)
土壌表面からの蒸発量のこと。
蒸散量(ジョウサンリョウ)
作物体の表面から大気中に放出される水の量のこと。
凍霜害(トウソウガイ)
作物が低温によって受ける被害のうち凍害と霜害を合わせて言う。
チャンバー法(チャンバーホウ)
作物または土壌面に透明な筒をかぶせて通気し、通気量と通気前後の絶対湿度差から蒸発散量を求める方法。
ライシメーター法(ライシメーターホウ)
蒸発散量や土壌中の水を測定するために金属やコンクリートで造られた土壌槽のこと。
水田灌漑(スイデンカンガイ)
水田に水を供給すること。
スプリンクラ(スプリンクラ)
砲金またはプラスチック製で、回転しながら散水する器具。
計器蒸発量(ケイキジョウハツリョウ)
蒸発計からの蒸発量のこと。
表面流出(ヒョウメンリュウシュツ)
降水のうち、地表面を直接流下して河道に達する水。
配水組織 (ハイスイソシキ)
ファームポンドから末端灌漑組織に至る一連の水利施設。
散布支管(サンプシカン))
スプリンクラ及び立ち上がり管が一定間隔に接続されている最末端の管路。
潮風害(チョウフウガイ)
潮風によって濃厚な塩分が作物に付着し被害を及ぼす。ひどい時は枯死する。
【引用・参考文献】(社)農業土木学会:農業土木標準用語事典(2003)